旅するものづくり工房を応援してくださっている皆さん、こんにちは。滑川寛です。
4月から制作を進めてきた旅するものづくり工房、7月にようやく完成し、いよいよ「旅」をはじめることができました。最初の目的地に選んだのは、滋賀県長浜市の田根地区。僕が慶應義塾大学の学部1年生の頃から関わり、所属する小林博人研究会が拠点を持つ場所です。
この田根に1ヶ月ほど滞在しながら、工房を動かし、いくつかのプロジェクトを進めてきました。今回はその様子を、順を追ってご報告したいと思います。

1. ココロネ市 2026 Summer への出店
7月26日、長浜市内の観葉植物店「& COCORONE」さんの敷地で開催された「ココロネ市 2026 Summer」に、旅するものづくり工房として出店をしました。イベントへの出店はこれが初めてです。隣にはキッチンカーが停まり、旅するものづくり工房もなんだかそれに近い佇まい。まさに「ものづくり版のキッチンカー」のような感覚でした。

長浜には「黒壁スクエア」という観光エリアがあります。その名前の由来になっているのが、明治時代に建てられた黒壁銀行(旧百三十銀行長浜支店)の外壁に塗られた「黒漆喰」です。当時の洋風建築では白い漆喰が一般的でしたが、この建物はあえて黒漆喰で仕上げられました。手間もコストも白漆喰よりずっとかかる特別な技法で、「それだけの資金力と品格がある、安心して預けられる銀行だ」という信頼を地域の人々に示す意味があったといいます。
そこで今回は、この黒漆喰を使ってキーホルダーや看板を作るワークショップを企画しました。事前にレーザーカッターでいくつか型を用意しておき、その場でキーホルダーを作ってもらうほか、参加者の方に実際にPCを触ってもらいながらその場で型のデータをつくり、レーザーでカットし、黒漆喰で看板を仕上げてもらう、という流れです。

地域の人にとって馴染み深い「黒壁」という言葉。その「黒」に込められた意味を、あらためて考えてもらうきっかけになったのではないかと思います。
一方で、こうした短時間・小規模なワークショップの限界も感じました。「黒以外の色はないんですか?」と聞かれる場面があり、材料に込められた意味や地域とのつながりを、十分に伝えきれなかったという反省もあります。(なんとなく「看板を作れるお店」という受け止められ方をしてしまった部分もあったかもしれません。)ものづくりを通して地域について深く考えてもらうには、もう少し規模の大きいワークショップの設計が必要だと感じました。
とはいえ、3Dプリンターやレーザーカッターを積んだ工房を運び込み、どんな場所でもその場でワークショップを開けるということは、しっかりと実証できました。この可能性を、これから色々な場・地域で試していきたいと思います。

2. 長浜市立田根小学校での出前授業

8月3日・4日の2日間、田根小学校で出前授業を行いました。小林博人研究会と田根小学校の出前授業は2023年から続いていて、今回で5回目になります。これまで、「木と建築の構造」をテーマにした授業や、「田根小のお気に入りの場所をつくる」授業を実施しました。

今年のテーマは「田根の、これまでとこれからを、遊びながら考える」。1マスを1年に見立てた大きなすごろくをつくり、子どもたち一人ひとりが好きな年を担当して、田根の「これまで」と「これから」を表現していきました。



出来上がったすごろくを実際に振り出しから辿っていくと、子どもたちがどんな未来を思い描いているのかが見えてきます。自分の身の回りと未来について、遊びながら考えるきっかけになったのではないかと思います。

3. 国際ワークショップ「MOKU 2026」
8月5日から15日にかけては、国際ワークショップ「MOKU 2026」を開催しました。8カ国、10代から80代までの10名の参加者が田根・長浜に滞在し、10日間かけて日本の林業・建築・暮らしについて学ぶプログラムです。

小林博人研究会は2007年から田根地区で活動を続けてきましたが、小林教授が慶應義塾大学を退官するにあたり、これまでのプロジェクトをどう引き継いでいくかを考える中で、一般社団法人 Co-Build Labを立ち上げました。MOKUは、そのCo-Build Labとしての初めての取り組みでもあります。
プログラムは大きく2つのフェーズに分かれています。
フェーズ1:森から、暮らしへ
8月6日、田根周辺をめぐるツアーと、日本の森・建築についてのレクチャーからスタート。7日・8日には、実際に森に入って木を伐採し、その木を使って古民家の改修を行いました。この2日間には、地元・虎姫高校の生徒も参加しました。



ホームセンターで買ってきた材料や、あらかじめ製材された木材を使うことが多い普段のものづくりでは、木が森から来ているということを頭では分かっていても、なかなか実感を持ちにくいものです。今回は実際に森に足を運び、木を倒し、その木で古民家を改修するという一連の流れを体験したことで、材料がどこから来ているのかを身体で学ぶきっかけになったと思います。参加してくれた虎姫高校の生徒たちは「海外の人と話す機会がほとんどなかったので、すごく貴重な経験になった」と話してくれました。

8日から9日にかけては、5軒の地域のご家庭にご協力いただき、ホームステイを実施。9日には田根坐ガーデンで地域の方々との交流BBQを行い、出前授業やワークショップの成果を発表しました。
フェーズ2:森から、街へ
10日から14日にかけては、長浜市内の大塚工務店さんと協働し、黒壁スクエアの一角にある空き店舗の改修に取り組みました。


当初は、黒壁エリアのフィールドワークを通して「この場所にどんな空間が必要か」を考え、看板やベンチなど、新しく何かを作ることを中心に構想していました。しかし、参加者の皆さんは、新しく何かを付け足すことよりも「今ある空間をどう活かすか」ということをとても大切にしていました。この店舗も、通りに面した部分が後から付け足された壁によって、奥にある広い畳の間や立派な蔵が見えなくなってしまっていました。それがもったいない、建物全体を通りから見えるようにしたい、という声から、既存の壁を取り壊し、シャッターを開け放つことを中心に手を加えていくことになりました。

この店舗の名前は「一八屋」。かつてこのあたりは、地域の人から親しまれ、長浜曳山祭りともゆかりの深い場所だったと伺いました。長らくシャッターが閉まったままになっていたこの一八屋も、看板を上げ直し、壁を取り払って通りに開くことで、地域の方にとって馴染みのあった風景がもう一度顔を出したように思います。場所自体が新しく生まれ変わったわけでも、新しいお店ができたわけでもありません。それでも、通りに対して顔ができたことで、これからここがどんな場所になっていくといいか、なんとなくみんなの頭の中に浮かんでくる。そんな変化を見ることができました。

たった1週間ほどの期間でしたが、地域の方の意識や、まちそのものが少しずつ動き出すきっかけになり得るのだと、今回のワークショップを通して感じました。
国際ワークショップは今回が初開催。大学の研究会としては活動が終わりますが、来年度以降は、一般社団法人 Co-Build Labとして、この活動を続けていければと思っております。
おわりに
こうして、1ヶ月ほどをかけて、滋賀県長浜市を舞台に、旅するものづくり工房として、そして所属する慶應義塾大学の小林博人研究会・一般社団法人 Co-Build Labとして、いくつかのプロジェクトを走らせてきました。
長浜・田根は、僕が学部1年の頃から通い続けて、もう5年ほどになる、とても縁の深い場所です。旅するものづくり工房として改めてこの地に入ってみると、「こんなこと・あんなことができそう」と、多くの方に興味を持っていただくことができました。旅するものづくり工房そのものの面白さや、地域に来ることの意味を、感じてもらえたように思います。このあとも、旅するものづくり工房は各地を巡っていく予定です。全国のいろいろな地域に足を運びながら、これからも活動の様子をお伝えしていきますので、どうぞ楽しみにしていてください。引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします。
